インターネット発の自己啓発本というものが好きではない。ブロガーが書いた自己啓発書の中には、詐欺師まがいの情報商材屋がオレ何円稼いだと喧伝するばかりの与太本が少なからず混ざっているので、警戒せざるをえない。
そんな先入観を抱いている中でも、フミコ・フミオ氏の著書はつい買ってしまった。彼はまず文章がうまい。辛辣なブラックユーモアに満ちた世界観で、知見と創作をまじえ、「つまらない仕事はしない」と働く様子を地に足つけて描いているところが好きなのだ。
今回の「神・文章術」は、小手先の文章テクニックを求めるならお勧めしないが、文章を書くことを通じて人生をどうSurviveするかという点では認知行動療法にも通じる楽しい本に仕上がっている。フミコ・フミオ氏の文体やバックグラウンドを知っているブログ読者だと更に楽しめると思う。
本書では、悩みを言語化し自分の価値観を確立させるために『書き捨て』が推奨されている。いわく、
- 紙に書け(裏紙で良い)
- 残すつもりで書くな
- 消しゴムや修正液で消さない。削除は線で
- 必ず捨てる
毎日何かを書きつけているのに、思うように価値観の確立ができていない自分は何が足りない……? と首を傾げてしまったが、本書では更に、悩みを解決するという目的意識をもって思考を言語化することが勧められている。自分が今までしてきたことは「私はこんなことがこれこれこんな風に嫌で……」と嫌だった気持ち・経験の質感の深堀り、ただの愚痴の書き連ねだったことに改めて気がついた。そんなことをしても成長するのは問題解決能力ではなく苦しみへの感度だ。下手な鉄砲数打ちゃ当たる、とはいうが、下手でも1発1発考えて打たなければ当たるものも当たらない。
例えば現状への閉塞感があるとする。そんなときは、自分は自分を取り巻くものについてどう感じているのか・相手は自分をどう見ているのか・世の中の距離感や位置関係などを冷静に分類し、対処出来る程度の悩みにまで言語化するとよい(らしい)。
さらに「この世は良いものと汚いものが綯い交ぜになって流れてくる川、その中から綺麗なものを幾つ拾い上げられるか」という人生観には強く共感した。日々の中にある小さな違いに気づいて価値を感じとれるか。日々の暮らしで起きる出来事や人間関係をできるだけ細かく言葉に落とし込んでいくことで、世の中を観察する目の解像度は上がっていく。
本書では、SNS等関係なく一人で思考を深めていく事、経験を自分の言葉に落とし込む事、嫌なもの・悩みと向き合って他者の複雑さを認識し恐怖や拒絶の対象ではなくしていく事の大切さがくりかえし説かれている。人の個性に気づくことの喜びを「真夜中にたったひとり望遠鏡と格闘して新星を発見した時の喜びってこんな感じなんじゃないだろうか。」と詩的に表現されていて素敵だった。
自分がもうちょっと賢かったら、もっと精神に余裕があったら、もっと上手くやれただろうなって思うことが本当にたくさん数え切れないくらいある。なので悩みや物事を噛み砕く時の視点が新鮮で役に立った。冷静な視点をとりいれつつ、引き続き色々書き散らしていきたい。
あと論理学の本が読みたくなった。