青空文庫読書メモ

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「追憶」による追憶

https://www.aozora.gr.jp/cards/001154/card44388.html
戦前の戯曲作家、岸田国士作。作者の少年時代の回想断片。
>勇壮な歌調、しかもおのづから纏綿たる情緒を漂はせたものであることはいふまでもない。一介の武弁、あれでも三十にして多感の詩人であつたかと思ふと、僕の幼時は、案外文学的に恵まれてゐたかもしれぬ。
ここ文のリズムが気持ちいいねぇ!

やきもの読本

https://www.aozora.gr.jp/cards/000243/card1328.html
小野賢一郎作。戦前〜戦中期の俳人
焼物好きの作者が焼物について語る。旧かな使いで難解な文体の上、焼き物に興味が無い身には全体的に薄味だったが、
>窯中の世界は又一種特別の天地で、理屈ばかりではゆかず、科學の一本鎗で解決しないところが面白いのである。こゝに一種の神祕がある。
ここでぐっと惹き込まれた。TLで狂っているオタクを観察するのと同じで、その人が対象にどんなワクワクをみいだしているのかを語られると興味が湧く。
>斯ういへば現在の作家には怒られるかもしれないが、作家をよく知るといふことは、いゝ場合と惡い場合がある、これは燒物に限らず書畫でもさうである。會はない前は床の間に懸けて愛賞してゐた書畫が作家を知つて後急に厭になつてくる――といふ話はよく聞くことである。
ほんまそれな。この後「芸術に人生を捧げるような人は大なり小なり偏屈」って言っててニヤッとしてしまった。人間誰しも何かしらにフェティシズムがあるとは思うけど、美術の道を選ぶような人は殊更執着心と感性が研ぎ澄まされているんだろう。この人はその対象がやきものだった。
>自分のもつてゐる金なり品物を手放して、其の物を手に入れてみるといふことが必要だ。必要だといふより燒物がわかるのに近道である。所謂痛い思ひをして身錢を切つて買つてみると、それが良かつたにしろ惡い物であつたにしろ、燒物がわかるといふ上には非常の影響がある。藝術といふものは、そんなものではないと笑ふ人があるかしれないが、他人の者を見て歩くだけの人と、自分の物にしやうといふ――慾心と考へちやいけない、自分の物にしやうといふ愛着心は、どれほど器物を理解する上に知見を早めるかしれない。
ここ良いですね。
>古さといふことは傳統といふことである。名物とか大名物とかいふものは品物の良さと共に其の古さが尊ばれてゐる。古さの歴史がはつきりしてゐる一つの器物につながつてゆく因縁、話、書付、さういふものが大切に傳へられてゐる。
>それは又それで、今日發掘される破片の荒れた肌よりも、何百年と人に愛玩されて、人間とあたゝかい交渉をもつた肌の方が潤ひがあり美くしさがあるであらう。
>時代の文字は幾ら眞似をしてもうまくゆくものでない、人の神經に時代といふ血が流れてゐるのだから眞似は結局眞似で、字のどこかにウソがある、ウソといふのはウソ字ではない、調子のとれぬところ、ためらつたところ、筆や箆や釘の先で書いた字でも、どこか空虚なウソがある。
小野賢一郎は、戦時下に特高と結んで反戦俳句を弾圧した新興俳句弾圧事件の黒幕とされる(えぇ……)。文章からかれの古き良きものを重んじる価値観などを伺うことが出来たが、それにしても特高の権威を利用して俳壇にのし上がろうとするのはいかんでしょ。作家をよく知るということは、いい場合と悪い場合がある…ってこういうことですか?

明暗

https://www.aozora.gr.jp/cards/000076/card46939.html
私のお気に入り作家、岡本かの子
与謝野晶子の流れを汲んだ耽美な作風で、鮮烈な文体が導入から気持ちええんじゃ。気性のはげしい女がああだのこうだの試行錯誤しながら人生の道をたどっている作品が好きすぎる。最後、盲目の夫に視覚の世界を教え込むのをやめて、聴覚と触覚の世界に放流したところに人間同士のコミュニケーションの本質があるような気がした。

西瓜

https://www.aozora.gr.jp/cards/001341/card49647.html
永井荷風作。実際西瓜について話しているのは最初のくだりだけで、あとは永井自身の生き方について語られている私小説。読了後、作者のWikipediaを読んだらエリートもエリートなお育ちと性的な奔放さに戦いた。
>わたくしは人の趣味と嗜性との如何を問わず濫みだりに物を饋ることを心なきわざだと考えている。
>わたくしはそのいずれを思返しても決して慚愧と悔恨とを感ずるようなことはない。さびしいのも好かったし、賑やかなのもまたわるくはなかった。涙の夜も忘れがたく、笑の日もまた忘れがたいのである。
永井荷風初めて読んだ。口をつけた瞬間に甘く綻びていく綿あめや、まるまると磨かれたガラス細工のような可愛らしい文体。綺麗で気持ちの良い情景描写を書かれるなあ。文化勲章をもらった際に「温雅な詩情と高邁な文明批評と透徹した現実観照」と称されていたのもうなずける。
「例え違う時代の違う国に生まれても今みたいな人生を送っていただろうな」って書いてる。自分の多病なのを憂い、自分さえいなければ父母は幸せだったろうと憂い、姻戚付き合いを拒否、避妊を徹底して子を望まぬことを幸福とする思想は、現代の反出生主義に通づるものがあるかもしれない。
>社交を厭うものは妻帯をしないに越したことはない。

>書を購って読まざるもまた徒事である。読んで後記憶せざればこれもまた徒事にひとしい。
すいません。