めくるめくソウルの世界。私はいわゆるZ世代だが、60~80's あたりのディスコ、ファンク、ソウルを好んで聴いている。タイトルを探すのはレコードではなくもっぱらサブスクである。掘っても掘っても値段は変わらないし、物理的な荷物は増えないし、音質は良いし、無尽蔵に出てくる宝の山だ。
たとえばこれ。”LOGG”は1981年に収録されたレコードで、ロレッタ・ハロウェイやサルソウルオーケストラでおなじみ名門レーベル・サルソウルから出ている。ブギーサウンドの大御所、リロイ・バージェスらによるスタジオプロジェクトである。ディスコ・ブーム終焉期に発売されたアルバムながら、今のCD屋でかかっていても何の違和感もない洗練されたサウンドだ。
こちらはおしどり夫婦デュオ、Mike&Brenda Suttonのアルバム。スティービー・ワンダーに見いだされ、モータウンでマイケル・ジャクソンなどの曲を手がけた。こちらはSAMレコードから出ていたがレーベルはすでに倒産している。
だが、私には歌詞がわからない。
古い洋楽を愛好していると、『歌詞がわからない』というのはよくあることだ。ファンクならまだしも、もっと古い年代では資料すら入手はむずかしい。レコード会社は何十年も前に倒産、復刻版CDも入手不可能、サブスクでも歌詞を配信していないものも多い。テキストさえくれれば勝手に訳すのに、インターネットの海やコミュニティを探しても転がっていないから、内容は何が何だか聞き取れないけどとにかくグルーヴのまま音楽を流している。
曲本来の魅力を堪能しきれていないようでもどかしいと同時に、何が書かれてるかわからない英字Tシャツを着てるようで心許ない。留学先の現地人が「走れ!走れ!走れ!」と日本語でびっしり書かれた服をまとっていたことがあるが、日本語ネイティブからしたら嬉しくもシュールな光景であった。彼女は、自分の着てる服に書かれた言葉がわかっていたのだろうか。
この障壁は高い。テキストがなければ、アシュフォード&シンプソン『High-Rise』めちゃくちゃノリいいじゃん…と思ったら切ない歌だったとか、車のCMソングでおなじみ『Centrefold』は「元クラスのマドンナがエッチなグラビアアイドルになってるんだが」的なしょうもない下ネタ曲だとか、そういうことに気づけない。
どういう空気感の中で生きて、何を歌ってるのか知りたい。叶うならこの年代のアメリカに行ってみたかった。映画『Saturday Night Fever』なんかの時代に。ちょうどこの年代に青春を過ごし、アメリカに生演奏を聴きに行ったほどの洋楽ファンのおっさんが身内にいるのでたまに話をするんだけど、うらやましくてしかたがない。ダンスフロアにあのアーティストやこの曲が流れていたなんて夢のよう。若者をうらやむおっさんはよく聞くけど、世の中にはおっさんを純粋に羨む女子もいるのだ。とはいえ、それこそデロリアンのタイムマシンでも使わなければ2022年日本から1980年代アメリカには行けない。仕方ないので、音楽や映画を見たり、レトロなアメリカンダイナーめぐりをするにとどめるのだ。
最近ではオンライン英会話を始め、この記事を書く直前にも終始ちいかわみたいな顔してレッスンを受けてきた。本来は将来の夢のために続けてきた英語学習だが、こういった海外文化に触れて視野を広げられるのも勉強の利点のひとつだとおもう。別の言語を習得するのは長い道のりだが、継続は力なり、勉強にはげみたい。歌詞カードのない音楽の、50年前の異国から語り掛けてくるメッセージが伝わってくる日まで。