ヒカルVALU売り逃げ騒動と相場操縦取引

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 相場操縦取引とは、市場において相場を意識的、人為的に変動させ、その相場を自然の需給によって形成されたもののように誤認させ、その変動を利用して自己の利益を図ろうとするものだ。

 このような行為は公正な価格形成を阻害して投資者に損害を与えるため、金融商品取引法で禁止され、違反者には証券取引等監視委員会による刑事告発や課徴金納付命令の勧告が行われている。しかしインターネットの勃興で新しいウェブサービスが発展する中で、司法の既存の枠組みでは規制しづらい取引問題も出てくるようになった。

 本記事では、一時期意識の高い人が好んで利用していた「VALU」というウェブサービスで起きた相場操縦問題を例に解説していく。

 VALUとは、仮想株式であるVALUを発行して、自分自身の価値を、ビットコインを使って他人に買ってもらうことのできるプラットフォームである。取引にはビットコインが用いられ、その価値は発行者の注目度や取引状況などによって変動し、発行者は売り出しによって資金調達を行うことができ、購入者は転売によって投機的な取引を行うことができる。利用規約では、「VALUは、株式を含む有価証券、前払式支払手段、法定通貨または仮想通貨のいずれでもありません」と記されていたが、実際の取引は、上場会社が発行する株式のように有価証券の取引に似た側面があった。

 2017年8月、このVALUにおいて、人気YouTuberヒカル氏や、所属事務所の顧問などの関係者による「売り逃げ」問題が発生した。ヒカル氏がSNSVALUでの活動を表明。優待を期待させるツイートをした事でヒカル氏のVALUが高騰した。同月15日、ヒカル氏を含む関係者が高値で売却し不正な売り逃げではないかという疑惑が発生、麻生太郎財務金融相が「消費者保護と新しいものを育てることの両方を考える必要がある」と見解を述べた。同年23日、運営会社の顧問弁護士からヒカル氏の所属会社及び顧問弁護士に対し、一連の行為による損害または損失が発生したユーザーへの損害賠償または損失補填、VALU保有者から買取り、ならびに損害を被ったユーザーに対する今後の具体的な対応の内容およびスケジュールの公表等を勧告する通知書が内容証明郵便により送付される。9月4日、取引を煽ったヒカル氏らが謝罪を公開し、運営会社は取引利用規約をアップデートしてこの騒動は終わりを迎えた。

 山田(2017)によれば、この問題は、情報漏洩による買い煽りからの売り逃げという、いわゆる相場操縦で消費者が被害を被ったにも関わらず、対応する利用規約・既存の法律がなく対応が難しかったという。サービス側の問題としては、VALUは2017年5月に開始した新興サービスだったため、利用規約が緩く、取引に関してインサイダー取引の禁止を行っていなかったことが考えられる。このうち風説の流布の禁止と相場操縦の禁止に類する事項は、騒動前の利用規約に禁止事項として規定されており、騒動後の9月4日における利用規約の改定では、インサイダー取引の禁止に類する事項が追加されている。インサイダー取引とは、「会社関係者」「情報受領者」「重要事実」を漏洩させて不当に利益を得る行為である。今回は「VALUに優待をつける」という情報を得た情報受領者が売り逃げの被害者となったと考えられる。また司法の観点から見るとこの取引はあくまでサービスの会員という特定の者との間での取引に限定されているので、VALUは資金決済法上の仮想通貨にあたらなかった。また有価証券に該当せず、金融商品取引法の適用を受けないと考えられる。実際、本件は刑事事件に発展していない。  

 問題の舞台となったVALUは、2020年3月にサービスを終了した。運営会社は閉鎖理由を「仮想通貨を巡る規制の強化に対応できなかったため」と説明している。


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 インターネットの発展に伴い、世界各地でさまざまな企業・サービス形態が生み出されてきた。しかしその急速な発展により法整備が追い付かない場合がある。経済の成長にとって新しいサービスの創造は必要不可欠だが、麻生金融相の発言のように、既存の法令に違反しないだけでなく、サービスの欠陥や悪用によって消費者が不当に不利益を被らないかという観点も忘れずにいることが肝要だ。

 

・参考文献

YouTuberヒカル氏のVALU売却騒動、利用規約改定でトラブルは防げるか

山田晃久https://www.businesslawyers.jp/articles/245 2022年1月30日閲覧

個人価値売買の「VALU」、3月末サービス終了へ

日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54595510Q0A120C2XY0000/ 2022年1月30日閲覧