女性管理職のゆくえ~選択的夫婦別姓制度

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 民法が制定されてから長い時間が経ち、市井の人々の価値観も、社会の在り方も変わっていった。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて以来20年、労働者のうちに女性が占める割合は年々増加している。13年に安倍内閣が発表したアベノミクス三本の矢「成長戦略」では、女性の社会進出が重要課題の一つに上げられた。これより、少子高齢化が進み生産年齢人口が低下する日本において、「女性の活躍推進」に社会的注目が集まっていることがわかる。そんな歴史の流れの中で、激しく討論が交わされている事項がある。選択的夫婦別姓制度だ。

 自民党の総裁選が近づいて各候補者のマニフェストが浮き彫りになってきた。党内では賛否が割れており、高市氏は導入への慎重姿勢を、河野氏・岸田氏は賛成意見を表明している。一方、立憲民主党も選択的夫婦別姓制度導入をマニフェストに掲げた。

 

 民法は、750条の規定により、夫婦同氏制度を採用している。選択的夫婦別氏制度とは,夫婦が望む場合には,結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の氏を称することを認める制度である。法務省のウェブサイトによれば、夫婦が同じ氏を名乗るという慣行が定着したのは,明治時代からだといわれている。明治31年に施行された戦前の民法では,戸主と家族は家の氏を名乗ることとされた結果,夫婦は同じ氏を称するという制度が採用された。第二次世界大戦後の昭和22年に施行された民法では,「夫婦は,婚姻の際に定めるところに従い,夫又は妻の氏を称する。」とされた。

 現在の民法のもとでは,結婚に際して,男性又は女性のいずれか一方が,必ず氏を改めなければならない。そして現実では約96%が男性の氏を選び,女性が氏を改めている。そこで女性の社会進出等に伴い、改氏による女性の社会的な不便・不利益を指摘されてきたことなどを背景に,選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見が増加している。

 

 選択的夫婦別姓制度は何度となく裁判の場に持ち出されてきたが、そのたびに認められないという判例が出ている。平成26年(オ)第1023号の大法廷判決の判例をみてみる。ここでは、氏名の氏を「法制度の一部であり、改められることは性質上予定されている」として、婚姻にともなう改姓は「自分のアイデンティティである氏を強制的に変えられる」という人格権の侵害には当たらないとしている。また、判決では、氏を「基礎的な集団単位を一つに呼称するもの」とし、一つの集団は一つの呼称によって括られるべきであり、同じ名称を使うことで集団の連帯感・帰属感を高めることができるともいわれている。これは、現行の法制上、選択的夫婦別姓制度のデメリットだといえるだろう。

 この判例では、「婚姻前の氏で同一人物として認識されず、研究職や営業職で社会的に不利」「女性のみが苗字を変えなければいけない構造が女性差別」という意見が挙げられている。家族を社会的な集団の最小単位として規定する意見に対しては、婚姻した夫婦とその嫡出子という形以外を認めないという、多様性に欠けた姿勢にもつながりかねないと指摘している。

 

 制度の問題上、選択的夫婦別姓制度は女性の職業上の差別と括って語られることが多い。ここでは、日本の女性キャリアのロールモデルである管理職について目を向けてみる。まず、「女性管理職」とは、一般的に係長・課長・部長などの責任と権限を持つ役職についている女性を指す。会社にとっても従業員にとっても女性管理職の増員は有用である。会社にとってのメリットは、ダイバーシティマネジメントという言葉で表される。これは、多様な視点を確保し、マーケットニーズを把握して経営上の方針決定に生かしたり、役員会や企業施策の硬直化を防いだりする目的で多様な人材を登用する取り組みだ。また、労働人口が減る中、能力の高い女性が性別を理由に適切なポストにつけないことは企業運営にとっての損失である。そして、従業員にとってのメリットは、ワークライフバランスが確保されやすくなることだ。企業の方針を決める取締役会は生え抜きの管理職から抜擢されるケースが多い。管理職の女性比率が低下すると、取締役会の女性比率低下につながり、方針決定の場に女性が少なくなる。結果、女性の登用政策や処遇が悪化し、仕事以外の生活もあることを前提にした労務管理をうながすことができなくなる。しかし、日本における女性管理職は未だ一般的ではない。実際に、日本の女性管理職の割合は、係長級18.4%、課長級10.9%、部長級6.3%で、上位の役職ほど女性の割合が低くなっている。日本の管理的職業従事者に占める女性の割合は13.2%であり、米国43.7%、フランス39.4%、シンガポール33.8%、フィリピン47.6%という他国の数値と比べると低い水準となっている(労働政策研究・研修機構)。このギャップを埋めるには長い時間がかかるだろう。

 選択的夫婦別姓制度を導入することで、女性が実績に見合った評価を受けて昇進すること、そして正当に昇進した女性がロールモデルとなって別姓制度がさらに社会的に認められるようになる未来が近づくのではないだろうか。

 

参考文献
内閣府男女共同参画局男女共同参画白書 平成30年度」、「男女共同参画白書 平成26年度」、「平成30年度版労働経済の分析(労働経済白書)」
竹信美恵子(2010)「女性を活用する国、しない国」竹信美恵子 岩波書店
金井篤子、佐野幸子、若林満(1991)「女性管理職のキャリア意識とストレス:インタビュー調査の結果から」経営行動科学学会
八代尚宏(2017)「働き方改革の経済学」日本評論社
「中小企業のためのダイバーシティマネジメント推進ガイドブック」東京商工会議所 2019年7月17日閲覧 https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/diversity/file/diversity1.pdf
「なぜ日本のジェンダーギャップ指数はこんなに低いのか」ハフポスト 2019年7月16日閲覧 https://www.huffingtonpost.jp/2018/03/08/gggi-japan114_a_23380980/

法務省 2021年8月2日閲覧 http://www.moj.go.jp/MINJI/minji36.html

最大判平成27年12月16日裁判所HP「裁判例情報」

選択的夫婦別姓、自民総裁選の争点に 野田氏「実現目指す」河野氏「賛成」岸田氏も… 高市氏は慎重:東京新聞 TOKYO Web