「ネット禁止条例」
2020年4月、香川県県議会で「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」という、スマホやゲームの使用時間規制条例が提出されたことを覚えているだろうか。この条例の内容を要約すると「インターネット使用時間は平日60分・休日90分までにして、午後9時~10時には使用をやめましょう」という趣旨である。日本でインターネット規制条例を出した自治体は香川県が初めて。この条例については、不透明な意思決定・家庭教育への介入への反発から、1月19日までに79件以上の反対意見が香川県議会に寄せられた。
だが青少年のネット依存が深刻な状況に陥っているのは事実だ。厚生労働所研究班が2013年に行った調査によれば、中高生の8.1%、51万8000人がネット依存に陥っているという。これをアルコール依存症と比較すると、依存症は80万人、依存症疑いを含めて520万人程度と推定される。 日本の飲酒人口は推計6000万人~7000万人程度とされており、飲酒人口のうち10%がアルコール依存ということになる。
未成年のネット依存は、アルコール依存と同レベルの社会問題なのだ。
依存の構造
依存とは、「身体的社会的精神的に害があるにもかかわらず、それをやめられずに反復し続けている状態」とされる。
「仕事が手につかない、何をやっても対象行為が頭に浮かぶ、禁断症状でイライラする、一文無しになるまでやる、支払予定の金を流用してでもやる、お金を借りても続ける、やめようと努力してもやめられない、家族を騙してでもやる、家族に泣かれたことがある」といった10の質問のうち、5つ以上に当てはまれば依存症と判断される。
依存症は脳内麻薬(ベータエンドロフィン)による快感、「時々勝つ」「不定期にSNSの通知が来る」という部分強化がさらに快感を強めることで引き起こされ、時間の感覚がなくなり、自制心が働かなくなってしまう。
今の中高生にとっては、ソーシャルゲームやYouTubeの動画視聴は、雑誌や漫画を読む・テレビやスポーツ中継を見るのと同じように、娯楽として大きな地位を築いている。インターネットが生活に浸透した現代社会において、アルコールやギャンブル、競馬と無縁に生きることはできても、インターネットを避けて通ることはほぼ不可能だ。インターネット依存の特異な点は、ネットサービスの種類を問わないことである。Twitterに依存する患者もいれば、ゲームやLINEに依存する患者もいる。
ネットで幸せを補う
インターネット依存を語る際に、しばしば「現実が充実していないから依存になる」という言葉を耳にする。これはあながち間違いではない。実際に、何らかの依存症に陥る人には、共通の心理がある。「日常生活で鬱憤がたまっている」「自己肯定感が低い」「何を目標として生きるべきかを見失っている」「空虚、空白、憂鬱な気分が続いている」の4つである。
- 社会資本:友人や家族
- 金融資本:豊かな生活や財産
- 人的資本:自己実現
依存を防ぐために
インターネット依存が持つこのような特性から、冒頭で述べたように時間制限を上から押し付ける香川県の条例には抑止力がないといえる。では、青少年のインターネット依存を防ぐために、私たちはどのような試みを取り入れるべきだろうか。
一般的な依存治療では、認知行動療法(依存症によって起こった問題を書き読み上げる)、自分を認めて強い興奮を必要としない生き方を見つける、依存症によって生まれた人生のツケ(借金など)を本人に払わせるといった治療法が重要とされる。脳の働きが症状を引き起こしていることを認識させて自己効力感を回復させたうえで、治療に専念させることが望ましい。
そしてもっとも大事なのは現実に居場所を作ることだ。安定した人間関係を築く、職をもつ、認められることや夢中になれることを見つける。欠けた資本を補うチャンスはネットの外にもあるのだと気づくことが大切だろう。
参考文献
・FNN編集部 2020年1月21日 「「スマホとゲームは1日1時間」驚きの条例案が物議…その後ゲームのみに修正した理由を香川県に聞いてみた」 FNNニュース
・熊代享 2013年8月6日「私が中高生のネット依存をヤバいと思う理由」ハフポスト