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【感想】すばらしい新世界 自己憐憫男バーナードがかわいい

オルダス・ハグリー「すばらしい新世界」ネタバレ感想です。

 

 

 

 まずは主人公バーナードについて書きます!!

 

  バーナードは仕事はできるけど、身長コンプレックスが強く卑屈で根暗な性格。社会の奔放さに違和感を感じており、ヒロイン・レーニナをデートに誘うのにも躊躇してしまいます。しかしその後、ジョンをイギリスに連れ帰ったことで時の人となり、調子に乗って周囲や権力者に尊大な態度取ったあげく、信用を失ってアイスランドに左遷されます。

 ディストピアSFでは、例えば「虐殺器官」クラヴィウスや「1984年」ウィンストンは徹底的な管理社会においても政府に対する反感を感じ、開放的な女性と出会って世界への抗戦を試みます。しかし「すばらしい新世界」バーナードの持つ繊細さは、あくまで自己憐憫からくる、一度成功を手にすれば簡単に瓦解するようなものでした。それどころかバーナードは、ジョン・ホルムヘルツら感受性強めトリオの中だったら一番「新世界」向きの価値観の持ち主、ありていにいえば俗物でしょう。信念も理想もなく現状の不満からくる社会への違和感を抱いているだけなので、アイスランド行きにおののいたり、手にした栄光にしがみついたり、ヘルムホルツとジョンが仲良くなるのに嫉妬したりします。

 バーナードは身長も小さいけど人間としても小物です。ヘルムホルツは美を、ムスタファは真実を求めその対価を支払いましたが、彼は身長さえあれば幸せになれたと思います。序盤の偏屈青年だったころは純粋に好きでしたが、読みながらあまりの器の小ささに、息子を見るような、ダメ人間への憐憫込の愛情に変わっていきました。

 

 それに比べて親友であるヘルムホルツは体も心も大きな男です。レーニナがバーナードを「赤ちゃんみたい」と形容していましたが、この2人は未成熟な幼児と父親の関係性なんですよね。所長に反抗したことを自慢したり、ジョンとヘルムホルツ構ってるとこに割り入ったり、バーナードは子供です。

 ジョンは死んでしまったけれど、ヘルムホルツとバーナードは左遷されて終了です。バーナードはたまにこっそりヘルムホルツに会って、偏屈捏ねながら詩を読んだりすればいいんじゃないでしょうか。

 この三人衆を粛清しないあたりすばらしい新世界のすばらしさがわかりますね。1984年だったら思考犯罪で101号室行きです。

 

 

 そして、ヒロインポジションのレーニナ。

 レーニナには、バーナードやジョンのような繊細さを持つ人間に惹かれる傾向があります。でも彼女は、生来の好きなタイプと新世界で刷り込まれた価値観が一致しないから、バーナードやジョンに対して自分から駆け寄りつつも常にムカムカしています。こういう恋愛、現実にもよくありますね。

 レーニナは最終的にヘンリーと寄りを戻しましたが、それで正解だと思います。新世界で育まれた奔放な女性が繊細な男と付き合っても、お互いソーマを飲んで無理し続けるだけです。

 

 ジョンとヘルムホルツとバーナードは感受性が強いという共通点がありますが、それぞれタイプが違います。

 ジョンはおのずとシェイクスピアに触れたほどの、感受性激強青年。現代社会でも繊細な人は生きづらさを抱えてるし自殺率も高いので、ラストは妥当だと思います。

 バーナードは元々(ありていにいえば)俗物だったけど、コンプレックスから繊細さが育てられたタイプ。

 最後にヘルムホルツ。生来に高い感受性を持ちつつ新世界イギリスで才を伸ばす機会にめぐまれなかった。ジョンと違って自殺に走らなかったのは、未開の人として追い掛け回されなかったこと、器の大きさが原因でしょう。

 

 繊細な人間は自殺して、性的に奔放な人同士が付き合って、社会不適合者はアイスランド行き。1984年や虐殺器官を読み終えた時には嫌な読後感が残りましたが、このラストには納得してしまいました。

 世界観設定がはちゃめちゃユニークで比較的明るいので楽しく読めるディストピア。面白かったです!